※朝やけ電気
「おやすみなさい」
幸せそうに眠る二人に
優しく囁く。
それから蛍光灯を消して
布団からゆっくり抜け出し、
ベランダで一人きり。
東の空を眺めれば、
夜明けが近くて
暖かな青白く
滲んだ光が見えた。
それはどんどん広がる。
どんどん広がって、
どんどん、広がって…
やがては
朝を迎えるのだろうね。
君と細君は朝が好きだった。
前に旅行に行ったとき、
車の中で朝を迎えて
太陽って本当に動くんだと、
朝の前の空はきれいだね
とはしゃいで、
旅行から帰った後も
夜明けを見るために
小さな目を擦って
何回も早起きをしていたのを
まだ覚えているよ。
うん、私も朝が好きだ。
でも、今は、
この朝やけを
消してしまいたい。
蛍光灯のように、
消してしまいたい。
朝が来ないように
してしまいたい。
だって君達を、
連れていってしまうから。
あぁ、
寝室へ目を向ければ、
暖かに青白く染まった部屋で
君と細君が消えかかっていた。
もう君達はいってしまう。
でもまた一年後の
この日にかえってくるんだね。
何事も無かったかのように、
起きなかったかのように。
そして私も、
何事も無かったかのように、
起きなかったかのように
この日を過ごすんだ。
二人に会いたくて
仕方がないのだから。
二人がとても大切だから。
この日のために
毎日を過ごしていたのだから。
でも、もう、
おしまいにしよう。
それぞれの場所で、
ちゃんと過ごしていこう。
…もう私には悔いがない。
そんなことでは
まったくないよ。
君達に笑われるくらい
悔いばかりなんだ。
じゃあ辛くなった?
そうでもないんだ。
逆にこの日が来るのを
ただ待ちわびて、
待ちわびて……。
でも、もう、いいんだ。
もう君達から
数え切れない程の
優しさをもらったから。
そして私は、
それをすべて思い出に帰して
日々を過ごしていこう。
私が私であるために、
君達が君達であるために。
それぞれの、日々のために。
太陽の光が辺りを照らした。
君達と違う私は、
ベランダでまぶしい
その光を一身に浴びていた。
ずっとずっと浴びていた。
ずっとずっと浴びていた。
ずっとずっと浴びていた。
三人の中でただ一人
浮いていた存在の私は、
ずっとずっと、
優しく暖かい
光を浴びていた。