※本質

 

酷く大人びている。

と、思った。

 

一人で登校し、

一人で弁当を食べ、

講義を受けている時は

とても丁寧なノートを取り、

放課時間には図書館で

黙々と本を読む。

 

誰とも話さない。

誰とも行動しない。

誰とも一緒にならない。

 

そしてまた一人で帰っていく。

 

 

どうしてそんな事が

出来るのだろう。

 

私には分からなかった。

 

確かに、

私も一人になるのは

好きだけれども、

ずっと一人で、

しかも誰とも話さずに

いるのは辛い。

 

一日ならいいが、

二、三日、五日と重なれば

寂しさ以上の何かが覆い、被さり、

変わらない気持ちでいるのも、

呼吸を上手く吸うのも出来なくなる。

 

どんな人でも、そうだと思う。

 

だけれどあの人は平気なんだ。

何とも思わないのか、

それとも全てを見下しているから?

 

 

とても気になったので、

「当たって砕けろ」という

言葉を支えに聞いてみた。

 

その人は想像していたより

高めの声で答えてくれた。

 

「本来なら、皆みたいに

過ごせた」

 

本来なら?

 

「忘れさせられたから難しくて」

 

忘れさせられた?

 

「仕方がないから、一人」

 

仕方がないから?

 

 

……困った。

聞いたらさらに

分からなくなってきた。

 

私が顔をしかめていたからか、

その人は詳しく教えてくれた。

 

「最初は何もなかった。

とても周りの人と変わりはなかった。

だけれど、昨年から変わってきた。

何がって、何か。

……ごめん。

それ以上に思い当たる言葉が無い。

それで、変わった性で

今こうなっている」

 

そうです、か。

と相づちを打っても

いまいち納得できない。

 

――だけれど、

その方が良いのかもしれないよ。

 

頭の中で走った言葉が

明瞭に響き渡った。まるで雷。

 

今のは私が思った事か。

目の前の人が思った事か。

不思議な事に私には分からなかった。

 

戸惑っている私を見て、

 

「あなたは本質を忘れないように。

どんな人でも持っている

本質を忘れないように。

それって、以外と大切なもの。

とても大切なものだから。

なくさないでね」

 

と、その人はゆっくりと

微笑みながら言うと、背を向け帰っていく。

 

呼び止めようとした時、

私は気付いてしまった。

 

その人の影がないという事に。

 

 

……忘れられた、と言っていた。

本質を忘れないように、と話した。

なくさないでね、と念押しをされた。

 

その事と影は関係しているのかは

分からないし知りようもない。

はっきり言うと恐ろしかった。

その人がなくしてしまった

本質の大切さや

今のその人の立場を。

 

何があったか。

どうしてそうならなければ

ならかなったか。

 

考えれば考えるほど

偏った想像が膨らみ、

呼び止めるための手が下がっていく。

 

私は、その人が怖くなってしまった。

 

 

 

 

 

だけれど、

何故か、

 

私は酷くその人の事が

前よりも強く気になり、

そしてその生き方が

とても羨ましくなった。