※テクノ依存症

 

 

あぁあああ。

 

大切な曲が詰まったCDが、

いとも簡単に割られていく。

手で、足で、とても簡単に。

ぱきぱき、ばきぃって。

 

『聞いてられるかこんな曲』

『入りからパクりじゃん』

『イメージと違うわ』

『あの続編じゃないとか

詐欺だろ絶対』

『曲変わりすぎ』

『聞く価値ないし』

 

あぁあああ。あああ。

また割られていく。

また割られていく。

あぁ直さないと。

 

地面に這いつくばって、

CDの破片をかき集めて

ただただ重ね合わせる。

でもジグソーパズルみたいに

ぴたって合わさらない。

違う駄目だ、

合わせるだけじゃ。

そうだ接着剤が必要だ。

馬鹿だなぁ意味ないよ、

くっついたとしても

曲なんて聞けないよ。

聞いてくれなんかしないよ。

でも直さないと。

直さないと、直さないと、

直さないと、直さないと。

 

でも必死になればなるほど

手は震えて、

破片が手からこぼれ落ちて。

あぁとまた拾い上げて、

また落として。

 

そうして下ばかり見ていたから

気付くのが遅かった。

 

目の前に、

ばきばきに割れたCDの

屑の山が出来ていたって事に。

 

あーあ。

 

あぁあ。

 

あぁあああ。

 

あぁああああああああああ。

あぁあああああああ。

あああああああああああ

あああああああ。

 

 

『…ねぇ、大丈夫?』

 

 

 

 

 

ばっと目を覚ます。

あれからいつの間にか

寝ていたみたいだ。

 

息が絶え絶えで

汗はびっしょり。

あぁあ、気持ち悪い。

本当、最悪な夢だった。

今の心境にぴったりで、

何処かで誰かが

していそうな様子だった。

そしてなによりも、

自分が惨め過ぎて笑えてきた。

 

馬鹿かよ自分。

割れたCDが綺麗に

直るわけないっての。

何回合わせても無理だっての。

でも、どうして、

あんなに必死にだったんだ?

 

『…ねぇ、大丈夫?』

 

ふと思い出したあの声。

夢の最後に聞いた声。

 

『…ねぇ、大丈夫?』

 

誰の声だったか。

…あぁ、あいつだ。

一週間前、部屋に無理矢理

上がり込んできたあいつだ。

 

『…ねぇ、大丈夫?』

 

あいつは俺のことを

心配してきたのに、

俺は気分に任せて

言っちまったんだよ。

 

『帰れよ馬鹿女。

黙って失せろ』

 

確かその後、

あいつは涙を数滴流して

帰っていった。

まぁ、帰るよな。

あんな言葉を掛けられたら。

そりゃ誰でも、帰る、よな。

 

…あぁあ、

本当に馬鹿だなぁ俺。

自分でどんどん壊してる。

曲も大切な人も自分も。

 

本当に、馬鹿だな。俺。

 

はぁあと溜め息をついて

ただただ何回も寝返りを

打っていた。

意味無し。時間の無駄。

でもそれ意外何もしたくも

見たくもない気分だ。

もう寝るか?

もう、寝よう。

 

と、

目を閉じようとした時に

頭の上に何かが落ちてきた。

チラシか?

いや違う。

チケット。

高校生バンドオンリーの

ライブチケットだ。

あぁ、なんかそういえば、

あいつが言ってたな。

聞きに来てって。

お願いだからって。

…馬鹿みたいに、必死に。

 

そう思い出した途端

俺はベッドから飛び出し、

服を着替えつつ

頭痛薬を飲み込み

鞄を引っ掴んで

ライブへ向かった。

 

この部屋から

逃げたいだとか

罪滅ぼしだとか

そんな理由じゃなかった。

ただ、ただ、

気になってしまった。

 

なら急げ。今しかない。

 

なんせ笑えることに、

ライブ開催日は今日で、

開始時刻はもうかなり

過ぎていたからな。

 

 

ライブ会場は

地下鉄の五番出口、

徒歩にて五分の場所。

狭い階段を下りて

狭い受付でチケットを渡し

狭いバーで申し訳程度な

ソフトドリンクを貰う。

そして重めの扉を開ければ

雑多な音楽が俺を出迎えた。

そ、ライブが

行われる本会場だ。

 

「さぁさぁ

盛り上がってるか皆!

続きましては

数ヶ月の沈黙を破り、

ついに復活!

注目バントのjointだッ!!」

 

joint?

そうか、良かった。

俺は間に合ったんだな。

 

「拍手ありがとー!

お久しぶりです、

jointですっ!!

色々あったけど

戻ってきたよ!!

あはは、ありがとう、

凄い熱気だね、

熱烈歓迎?えへへへ」

 

メンバーは四人。

一人を除いて、だ。

 

「…でさ、実はね、

今回歌うのは一曲しかないの。

……なっ、えー!とかそんな、

これでも頑張ったんだから!

聞いて否定してっての!

あはははは、ありがとう」

 

再結成したんだな、

知らなかった。

 

「でね、その曲、

今回私が作ったの!

大変だったよ、ホント。

でもね頑張って作ったの。

だから下手でも我慢して

聞いてね、皆!」

 

まさか、ボーカル、お前、

それを聞かせるために

 

「不在の我らがコンポーザーに

捧げます!『Thus』!!」

 

ギターとピアノの前奏。

コンクリート丸出しの

壁や天井に響いて、

駆けていく軽い曲。

それに続けと

ドラムが追い掛けて、

ライトを浴びた

ボーカルが歌い出した。

 

 

すれちがう 交差点で

合わさった あなたの目線

とおまわり 慣れない手拍子

どこまでも 歌ってみせた

 

流れてゆく 感情と

立ち合わせた 関係を

塞き止めて 重ねていった

いくつもの光で

 

 

どんなに遠い道で迷ってる

君がいても側にいるから

どこかも知らない場所でも

いつまでもいるから

 

どんなに距離が離れていても

見つけ出すんだから

 

ねぇ 君のそのままの声を

そのままの感情を つたえて

 

 

 

あぁあ、あぁあ。

全く、テンポがあってない。

ギターが時々ずれてる。

ドラムもちょい遅れてる。

なんせ全体の音が

上手く合わさってないから、

はっきりいって

ボーカルの声が聞こえない。

二番目分かんないって。

それに音韻踏んでないから

歌詞がぐだくだだぞ、

よく曲と合わせれたな……。

 

あーあ、でもさ。

バントも観客も

死ぬほど楽しそうだ。

 

それに俺も、

昔その一員だったんだ。

jointとしてバントを組んで、

ギターかき鳴らして

阿呆な音楽作ってさ。

他のバントのライブに行って

馬鹿みたいに

首ぶんまわしたり

皆でそれなりに踊ったり。

でも笑いまくってた。

すっごく楽しかった。

 

『ほら、これが新しい譜面』

『おぉスゲェ!あんがと!』

『今回も難しいの

作りやがって、

悪かったら承知しないぜ?』

『ねぇねぇ、

どうやって歌うのこれ?』

『そういうと思って

それなりの作ったぞ、ほら』

『えっなにこれ凄い、

誰が歌ってるの?!

あたしよりも上手いよ!』

『知らねぇのかお前、

ボカロってやつだよボカロ』

『…すげぇな、

これでもいけんじゃねお前?』

『お世辞なんて

いらねえっての。

ほら練習するぞ!』

 

 

なつかしい記憶。

まだ音楽が何よりも

好きだった時の記憶。

 

あぁそうか。

あのCDを必死で直そうと

してたのは、

中に入っている曲が

あいつらとの……。

 

 

どうして

忘れていたんだろうな、

こんなに大切な原点をさ。

遠くにあって触れないものより

近くにあって触れるものが

一番大切だという事を、

どうして、忘れて…

 

 

堪らなくなり人をかき分け

従業員の注意を無視して

無理矢理ステージへ

上がり込む。

驚くメンバーの顔を眺めて

気持ちを整理させると

 

「すまん」

 

と俺は頭を下げた

友人らはしばらく

目をぱちくりしていたが

 

「馬鹿野郎、

んなのどうでもいいだろ。

待ってたんだぞ」

「おっかえり!

ホント作曲以外の

作業がが遅いからな、お前」

「おひさ、

心の傷は癒えたかい?」

 

と好き勝手に言い始めた。

言葉を選べよ。嬉しいけど。

取り敢えず反論をと

思っていたら、

 

「…ねぇ、大丈夫?」

 

あのボーカルが

話し掛けてきた。

 

「もう大丈夫?

一緒にまた、歌える?」

 

不意に目頭が熱くなり、

目の前がぼやけ始めた。

……この馬鹿女。

一番嬉しい言葉を掛けるなよ、

泣かせるつもりかってんだ。

観客の前で泣くだなんて

死んでもしたくないぞ。

 

まぁ、いいや。

まずは笑って

さっきの言葉に

yesを示しとこう。

それからアイコンタクトで

微笑むボーカルから

マイクを受け取ると、

今一度メンバーの顔を眺めて

練習曲行くぞと囁いた。

 

観客は減らずに、

逆に増えて歌が始まるのを

今か今かと待っていた。

あぁあ、

全てがなつかしくて新しい。

楽しくって仕方がない。

あぁあ、いいよ。

ずっとずっと続けてやる。

馬鹿みたいに続けてやる。

そうじゃないとつまらない。

 

「よぉ久しぶり!

社会の荒波から

戻ってきてやったぞ?

って訳で復活記念に

もう一曲歌ってくぞ!

練習曲だから

オリジナルじゃないのは

許せよ!!」

 

まぁなんにせよ

jointの復活だからな、

ちゃんと聞いてけよ?

 

 

「歌うのは天野 月から

『BOOSTER ROCKET』!!

盛り上がってけ!!」

 

 

そして、曲が流れ始めた。