※歯車

 

 

「えっと」

 

話を整理するため、

相談役は目を閉じる。

 

「…趣味は合うけれど、

話が何故か進まない。

どうしてなのか。

また、どうすればいいかを

教えて欲しい…。

そういう事、なのかな?」

 

そう言い目を開ける。

相談者は手をもじもじと

動かしつつ、

ええやらはいやら

力も落ち着きもなく答えた。

 

相談役はそうなんだ、

と答えると

 

「なら、会話が続かない理由。

それはなんだと

あなたは思いますか?」

 

と返した。

相談者は一瞬驚いた顔をすると

えっと、その、を

何度も繰り返し、

首を傾げ、髪をいじり、

ようやく話し出す。

 

「どう頑張っても、

全然続かないから……

なんていうか、その、

仲が良くないのかな、って…」

 

「けれど趣味は合うんだよね」

 

「は、はい、そうです」

 

相談役はしばらく

考え込むと、

顔を上げ、相談者を見据える。

 

「もしかすると、

うまくまわらないのかも

知れない……」

 

「えっ?」

 

「あっ、会話の事です。

…いつもあなたは

どんな風に話して、

どんな風に聞いてる?

相手の事を考えてる?」

 

相談者は

はっとした顔をすると

下を向く。

もじもじとしていた

手は止まり、

ぐっと握り締めていた。

…どうやら思う所が

あったらしい。

相談役は一呼吸つくと

話し出した。

 

「私の勝手な意見だけれど、

人って歯車みたいだなって

思うことがあるんです。

それぞれの大きさで、

それぞれの速度で

回っているような。

それに、何人も集まれば

何でも出来る所とか、

凄く似ているなと思うんです」

 

相談者はすっと顔を上げ

相談役を見返した。

その目には

言動の弱々しさから

かなりかけ離れた

非難と批判めいた色が覗く。

『それが何だっていうの。

早く教えろっての』

とでも言うような。

 

…相談役はそれを

知ってか知らずか

言葉を繋げる。

 

「――それに、

沢山の歯車が集まり、

噛み合い、回っている最中に

一つが好き勝手に

回り始めると

全部が一気に壊れてしまう。

そんな所も、

似ていませんか?」

 

相談者の指がぴくりと動く。

相談役は続けていく。

 

「つまり、私が伝えたいのは

自分の話し方を見直すと

良いかもしれないって

事なんです。

…歯車はたくさんあります。

それぞれの速度と

それぞれのまわりかたを

よく考えてみてください。

もしかすると、

今のまわりかたでは

相手とは合っていないかも

しれませんから」

 

相談者は、そうですか

ありがとうございますと

言いつつ微笑みながらも

相談役から目を背ける。

…いや、目が泳いでいる。

アドバイスは図星のようだ。

 

一方は姿勢を崩さずに

訳に立てたら嬉しいですと

これまた微笑んでいた。

そして相談者に、

 

「勿論アドバイスは

私的な意見なので、

そこのところは

よろしくお願いしますね」

 

と言うと笑った。

相談者もふふふと笑ったが

目は笑っていなかった。

 

 

その後、

しばらく沈黙が続く。

 

「……えっと、

これで相談は大丈夫かな」

 

相談役がそれを破ると

相談者はまたはっとして、

 

「へっ、あ、ちょっとその、

まだ一つ聞きたいことが」

 

と言った。

 

「なんですか?」

 

相談役がそう返すと

また手をもじもじと動かし、

話始めた。

 

「どう調節しても

まわらない場合は……?」

 

聞かれた側は

一瞬遠い目をすると

即答した。

 

「素材が違うと

諦めるしかありませんね」

 

答えたその顔は

笑っているようであり

酷く無表情だった。