※紅葉

 

カエデが真っ赤に色付いていました

 

イチョウやその他の木が

紅葉の盛りを越えて落ち葉になっていましたが

依然としてそのカエデだけは盛りを留めているままだったのです

 

そんなカエデの木は校舎の裏にあります

 

掃除の時間にしか通らないような道の傍らに生えているのに合間って

普段上を見る人が少なく居ることすら気付かれない木なのです

 

ですがカエデは毎年燃えるような赤に色付きいつもはっとさせるのです

数時間しか日の光に当たらないというのにどうしてこうも色付く事が出来るのでしょうか

どうにもこうにも不思議で仕方がなく考えながらよく眺めていました

 

例のごとくそうやって木の下でカエデを見ながら突っ立っていますと

誰かが側によって教えてくれたのです

 

朝の5時頃の日が差した時のカエデは素晴らしい

 

なら見てみるのが正しいというものでしょう

 

 

しかし次の日の朝の5時は雨でした

水滴は中々強くビニール傘とカエデの葉を容赦なく打ち付けてくれます

 

全くもって酷い話です

カエデも赤黒く見えますし

雨はいっこうに弱くなる気配を見せません

 

それでも木の下で突っ立っていますと

カエデの見頃を教えてくれた人が傘を差さずに話し掛けてきました

 

雨でも来たんだね

見れなくて残念かい

 

そりゃもちろん残念です

そう答えると返しました

 

でも大丈夫でしょう

あなたは好かれたようですから

 

それはまたどういうことでと聞こうとしたら

わっと雨粒の塊が降ってきて

何もかもが見えないくらい聞こえないくらい辺りを打ち付け真っ白にしました

 

 

気付いたときには空は青白く晴れていて

先程まで話していた人は

最初から何処にもいなかったように目の前にいないのです

 

さてはてどういうことかしらと上を見上げれば

ビニール傘にはカエデがびっしりと張り付いていて

朝早くの日光を浴びる赤い葉を通した光が私の眼に真っ直ぐに届いてきました

 

なんてきれいなものでしょうねと暫し感嘆としていますと

さっきまで赤いカエデを支えていた木はすっかり丸坊主になっていまして

盛りを終えたような雰囲気をまとっていました

 

周りの地面にはカエデの落ち葉はなく

ビニール傘にしか落ちていないようでした

 

これは不思議なことがあるもんですねと傘の表面を撫でてみれば

元からそうだったかのようにカエデはぴったりとくっついていまして

離れることはないようでした

 

さてはていよいよ分からなくなってきたものですと呟いてみれば

 

でも大丈夫でしょう

あなたは好かれたようですから

 

という言葉しか思い出せず

困るしかなかったのです