※終末思想

 

「ねぇ明日、人類が滅びるって」

 

「…は?そんなデマ信じてるのか、お前」

 

「信じるのは勝手じゃない!」

 

「だからと言って今すぐ一緒に逃げようとか言うなよ?」

 

「言わないわよ、そんな事。だって滅びはしないもの」

 

「…言ってる事が矛盾してるぞ?滅んでいるのはお前の頭かもな」

 

「なっ、酷い、矛盾してたかもしれないけれどそこまで言わなくても…!」

 

「じゃあ、どういう事だよ」

 

「あっ、うんそれはね…滅びそうになっているけれど、私達は知らないうちに助かっているのよ。きっと」

 

「…は?」

 

「北はララお嬢様。南はイーサン・ハント。西はJ&K。東はジョーンズ博士によって世界は滅亡の危機から救われているの!」

 

「お前、洋画の見すぎじゃないか…?」

 

「良いじゃん、こう思った方が面白くて楽しくて、なんかたぎってくる!」

 

「たぎるなたぎるな。うるさくなるだけだからな」

 

「う……じゃあ、そういうあなたはどうなのよ」

 

「何が?」

 

「人類が滅びるかどうか、考えた事ない?」

 

「……そんなものはデマだ。考えるだけ時間の無駄だ。以上」

 

「あぁやだ、つまんないの!」

 

「何がつまらないだ。それ以上それ以下の何物でもないだろ?」

 

「そんな事ない、こういう事で想像力を発揮させてこそ人間でしょ!」

 

「そう言われてもね」

 

「ねーぇ、何か無いの?一度も考えた事は無いの?」

 

「…まぁ、無いと言ったら嘘になる。それなりには、考えた事は、ある」

 

「えっ何それ凄く聞きたい聞かせて」

 

「な、いきなり何だようるさい」

 

「別に良いじゃない、凄く気になる事に興奮しても!」

 

「はぁ」

 

「お願い聞かせて!本当に聞かせて!この通り!!」

 

「分かった分かった、拝むな。…お前、つまんないのぉーとか言うなよ?」

 

「勿論、絶対、仰せの通りに!」

 

「………。まぁ、良いや……いいか、俺の考えだとな、全人類が一斉に死んで、一斉に生き返っているんだと思っている。誰も気付かないし、一応は人類が滅亡したことになる。どうだ?」

 

「………」

 

「?」

 

「凄い」

 

「は?」

 

「凄い凄い凄い凄い凄い!!それ凄く格好良い!!さっすがぁ!!」

 

「あぁはいはいはい、うるさいうるさい」

 

「何よその扱い、感嘆しているのに、誉めてるのに!」

 

「まぁそりゃ嬉しいが、うるさいのは嫌いだ」

 

「そんな風に言わなくても!」

 

「うるさくなければ言わない」

 

「…………うぅ」

 

「あぁ静かになった。お利口さんだお利口さんだ」

 

「…なんか苛々する」

 

「それは気のせいだ」

 

「…あ、なら、人類が滅亡するといえば、他の事も考えない?」

 

「他の事?」

 

「最後に何を食べるか」

 

「阿呆らしい」

 

「酷い、酷すぎるわ、一言で終わらせないでよ……!私はしっかり考えたんだから」

 

「じゃあ聞いてやる。何だ?」

 

「えっとね、普通に怖くて気分が悪くなって何にも食べてないと思うわ」

 

「お前、馬鹿、そこはやけに現実的だなぁ!!」

 

「なっ笑わないでよ!笑うなってば!!」

 

「だって、何も食べれないって、本当…ははは」

 

「うう、で、でも今回は滅亡する日が冬至だからカボチャは食べるわよ、絶対!」

 

「おまっ、人類滅亡するのに無病息災を願ってどうすんだよ!!」

 

「べ、別に良いじゃない、美味しいんだから!」

 

「お前って、はは、もう本当に馬鹿なんだからなぁ、っははは!」

 

「あなたが馬鹿馬鹿何度も言うからこうなったんじゃない馬鹿っ!」

 

「あぁはいはい。ははは、すみませんでしたと」

 

「うぅ、腑に落ちないわ…!」

 

「ははは、そんな顔するなよ。笑わせてくれたお陰に俺が食べたいものを教えてやるからさ」

 

「えっ、なになに?」

 

「言うぞ?」

 

「うん」

 

「馬鹿なお前が作ったおにぎり」

 

「…へ?」

 

「何回も作る作るって言って作らないだろ、お前。だから食べてみたい」

 

「………」

 

「絶句されても困る」

 

「いや、えっと、そのね、まさかそんな事言われるとは思わなかったもの…」

 

「そうか、それは心外だな。それに残念だなぁ、明日人類が滅亡するなんてー」

 

「あからさまな棒読みね………まぁ、うん、そうね、残念ね。だから……しょうがないわね、明日、作ってくるわよ」

 

「何を?」

 

「おにぎりよ」

 

 

 

そういって彼女は笑った。

 

人類滅亡という馬鹿らしい思想も、

こういう風に繋げれば

案外良いものかもしれない。

 

…そう考えた自分の方が

意外と馬鹿なのかもな。

 

そんな事を思いながら自分も笑って言う

 

 

「明日、楽しみにしてる」