※雨の日

 

 

雨が降ると思い出す。

 

二人仲良く寄り添う傘。

それを見送る私の影。

強い雨が止まない空。

傘もささずに帰る人影。

 

黒い廊下に響く足音も、

窓を伝う大粒の雫も、

冷たい足と手も。

 

そして図書館に入り浸り

寝てしまった私に

置き傘を置いていった誰かを。

 

次の日に、

風邪で休んだその誰かを。

 

 

それから嫌いな置き傘を

どんな時でも

持つようになったのは、

他でもないあの誰かに

いつかお返しをするため。

 

 

そして、

また風邪を

引いてもらいたくない

小さな思いからでした。

 

 

 

 

 

 

雨が降ると思い出す。

 

仲むつまじく寄り添う傘。

それを見送るあいつの背中。

雨を落とす黒い空。

ずぶ濡れで帰る影法師。

 

藍色の廊下に響く足音も、

窓を叩く大粒の雫も、

冷えきった脚も手も。

 

そして降りしきる雨の中

走って帰った俺が、

図書館で寝ていたあいつに

置いてった橙の置き傘を。

 

 

三日後に橙の置き傘を返し、

二週間後に朱色の置き傘を

そっと貸してくれたあいつを。

 

 

そうしてどんな天気でも

必ず置き傘を二本持つ

ようになったのは

他でもないあいつのせい。

 

他でもないあいつに

世話にならないため。

 

 

…二本持っているのは

薄暗い図書館に、

あいつをたった一人で

寝かせない。

そんな気持ちがあったからだ。