※雨の日
雨が降ると思い出す。
二人仲良く寄り添う傘。
それを見送る私の影。
強い雨が止まない空。
傘もささずに帰る人影。
黒い廊下に響く足音も、
窓を伝う大粒の雫も、
冷たい足と手も。
そして図書館に入り浸り
寝てしまった私に
置き傘を置いていった誰かを。
次の日に、
風邪で休んだその誰かを。
それから嫌いな置き傘を
どんな時でも
持つようになったのは、
他でもないあの誰かに
いつかお返しをするため。
そして、
また風邪を
引いてもらいたくない
小さな思いからでした。
*
雨が降ると思い出す。
仲むつまじく寄り添う傘。
それを見送るあいつの背中。
雨を落とす黒い空。
ずぶ濡れで帰る影法師。
藍色の廊下に響く足音も、
窓を叩く大粒の雫も、
冷えきった脚も手も。
そして降りしきる雨の中
走って帰った俺が、
図書館で寝ていたあいつに
置いてった橙の置き傘を。
三日後に橙の置き傘を返し、
二週間後に朱色の置き傘を
そっと貸してくれたあいつを。
そうしてどんな天気でも
必ず置き傘を二本持つ
ようになったのは
他でもないあいつのせい。
他でもないあいつに
世話にならないため。
…二本持っているのは
薄暗い図書館に、
あいつをたった一人で
寝かせない。
そんな気持ちがあったからだ。